VT検査20年の現場目線で語る:目視判断の基準と記録に残すべき観察点

VT(目視試験)には資格制度がない——だからこそ判断基準を明文化する

NDT検査のなかでVT(Visual Testing: 目視試験)は最も基本的な手法だが、実は資格制度が存在しない。UT(超音波探傷試験)やMT(磁粉探傷試験)にはJSNDI(日本非破壊検査協会)の技量認定制度があるが、VTには対応する認証がない。

そのため現場では「見て判断する」行為が属人化しやすく、新人とベテランで記録の粒度や判断軸にばらつきが生じる。私自身、18歳からVTを軸に約20年のキャリアを積んできたが、判断基準を言語化して共有する習慣がなければ、検査品質は個人の経験値に依存してしまう。

本記事では、VT検査で記録に残すべき観察点と、JPI/API規格に基づく判断軸を新人向けに整理する。

記録に残すべき観察点:劣化の「位置・形状・程度」を数値化する

VT検査の報告書で最も重要なのは「再現性」だ。誰が読んでも同じ状態をイメージできる記録を残す必要がある。

位置の特定

配管検査であれば、基準点からの距離(例: フランジ面から軸方向500mm、時計方向3時位置)を必ず記録する。「この辺」「あの配管」といった曖昧な表現は避け、図面上の配管番号・エルボ番号・支持架台番号などの固有IDと紐づける。

形状の記述

減肉・き裂・腐食の形状を「線状」「点状」「面状」で分類する。線状であれば長さ・方向(溶接線に平行/垂直)、面状であれば広がりの寸法を計測する。スケールやノギスで実測し、写真には必ずスケールを写し込む。

程度の数値化

JPI-7S-15-2020(配管開放検査)では、減肉の場合は残存板厚を測定し、設計最小板厚(minimum required thickness)と比較することが求められる。腐食深さ・き裂深さが目視で判断できない場合は、UT(超音波探傷)など他手法との併用を検討する。

JPI/API規格における判断基準の読み方

JPI-7S-15-2020(配管開放検査の指針)

この規格は石油精製プラントの配管開放時の検査手順を定めている。VTで発見した減肉・腐食に対し、「補修要否の判断フロー」が示されており、残存板厳・腐食速度・次回検査までの予測板厚を計算する考え方が記載されている。

新人が見落としやすいのは、単なる現状の板厚ではなく「次回定修までの減肉速度を考慮した予測値」で判断する点だ。過去の検査記録と比較し、減肉速度(mm/年)を算出する習慣をつける。

API 510(圧力容器検査規格)

API 510は圧力容器・配管の検査・補修・改造の要求事項を定めた国際規格で、日本のプラントでも参照される。VTの実施頻度・記録様式・判断基準が具体的に示されており、腐食許容(corrosion allowance)の考え方が明文化されている。

API 510では、VTを「一般目視(General Visual)」と「詳細目視(Detailed Visual)」に分けており、後者は近接目視・拡大鏡使用・表面清掃後の観察を含む。どちらのレベルで実施したかを記録に残すことが重要だ。

ASME Section V(非破壊試験規格)

ASME Section V Article 9はVTの手順を規定しており、照度・視力・観察距離の要求事項が記載されている。例えば、観察面の照度は最低1,000ルクス、観察距離は600mm以内といった具体的な数値基準がある。

現場では照度計を携行し、検査実施時の照明条件を記録する。特に配管内部や高所作業では自然光が届かず、照度不足で見落としが発生しやすい。

新人が陥りやすい落とし穴:「見えた」と「判断した」の違い

落とし穴①:観察したが記録しなかった

「特に異常なし」という記録だけでは、何をどのレベルで観察したかが伝わらない。少なくとも「照度○○ルクス・観察距離○○mm・表面清掃実施済・き裂指示なし」といった観察条件と判断根拠を残す。

落とし穴②:基準値を知らずに「問題ない」と判断

減肉を発見しても、設計最小板厚を知らなければ補修要否は判断できない。検査前に図面・材料証明書・前回検査記録を確認し、判断基準となる数値を把握する習慣をつける。

落とし穴③:写真だけ撮って寸法を測らない

写真は状況証拠にはなるが、定量データではない。スケールを写し込んだ写真+実測値の記録をセットで残す。

まとめ:VTは「見る技術」ではなく「記録し判断する技術」

VTは資格制度がないため、現場での判断軸と記録方法を自ら学び、標準化していく必要がある。JPI-7S-15・API 510・ASME Section Vといった公式規格を読み込み、観察点・判断基準・記録様式を体系的に整理することで、属人化を防ぎ再現性の高い検査が実現できる。

20年の現場経験から言えるのは、VTの本質は「見る技術」ではなく「記録し判断する技術」だということだ。新人のうちから記録の粒度と判断軸を意識し、規格に基づく検査を習慣化してほしい。

参考

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