潜水士という副業を選んだ背景
私がNDT検査の閑散期に潜水士の副業を始めたのは、次の3条件を満たしていたからだ。
- BtoB・対等構造:水族館という法人施設との直接取引で、「困っている側」と「解決する側」の立場が対等
- 肉体労働だが単価が明確:水中作業は危険手当込みで業界相場が明瞭。交渉の余地がある
- NDTとシナジーがある:閉鎖空間の点検・清掃という意味で、VT(視覚試験)の延長線上にある
『マーケット感覚を身につけよう』(ちきりん)で学んだ「誰が何にいくら払っているか」を観察する習慣が、この副業選定にも効いた。水族館は「プールを止めずに清掃できる潜水士」に価値を感じており、こちらの言い値が通りやすい構造だった。
対照的に、家電修理は「対面×故障対応×立場が不当に低い×感情労働」が重なって継続を断念した。潜水士はこの逆——非対面(水中)・予防保全(故障前)・対等構造・肉体労働(感情労働なし)——だったため、副業として理想的に見えた。
実際にやった仕事:イルカプール清掃の手触り
具体的には、イルカが使うプールの底面と側面の清掃を担当した。イルカは人懐っこく、作業中に近寄ってくることもある。ただし彼らは視力が弱く、超音波(エコーロケーション)で周囲を認識している。急な動作は避け、プールの隅で静かに作業するのが基本だ。
清掃道具は水中ブラシとスクレーパー。藻やヌメリを落とす単純作業だが、水中では浮力と水圧が働くため、陸上の2〜3倍の時間がかかる。30分の作業でも体感は1時間超え。潜水士資格を持っていても、実務経験がなければ想定工数を見誤る。
この「水中作業の工数見積もりの難しさ」は、NDT検査で学んだ「足場・アクセス性を加味した検査計画」のスキルが直接活きた。どちらも「現場の制約条件を読む力」が要る仕事だ。
半年でやめた理由:案件数が圧倒的に足りない
潜水士副業を半年で終えた理由は、案件数の少なさに尽きる。
水族館のプール清掃は月1回程度。1案件あたり2〜3時間の作業で、年間12〜15回が上限だ。NDTの閑散期(6〜8月、12〜2月)に集中させても、年間稼働日数は20日に届かない。
『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(三戸政和)で学んだ「既存顧客がいる事業を買う」発想の裏返しだが、潜水士副業は「案件を自分で作り続けなければならない構造」だった。水族館は全国に約60施設しかなく、エリアを広げても営業先が限られる。
対照的に、NDT検査は定期修繕(定修)というサイクルがあり、取引先が定期的に発注してくれる。この「仕事が向こうから来る構造」の有無が、副業継続の分水嶺だった。
対等構造でも案件数が命:副業選定の教訓
潜水士副業から得た教訓は、「BtoB・対等構造」だけでは不十分ということだ。継続可能な副業には次の3条件が要る。
- 対等構造(不当な扱いを受けない)
- 案件数の見込みが立つ(営業しなくても仕事が来る or 営業先が多い)
- 本業とのシナジー(スキル・工数・顧客基盤の重複)
潜水士は1と3を満たしていたが、2で躓いた。仮にプラント水中検査(石油タンク底部の目視点検など)に横展開できれば案件数は増えたが、NDT本業との工数衝突リスクが高く、踏み込まなかった。
『【新版】小さな会社★儲けのルール』(竹田陽一、栢野克己)のランチェスター戦略で言えば、「弱者は1点集中」が原則だ。NDTという狭いニッチで1位を取る戦略を優先し、潜水士という横道は引き返した。
いまは案件があれば受ける程度のスタンスで、資格維持はしている。50歳以降の「呼ばれて行く」働き方の選択肢として、潜水士という札は手元に残しておく価値がある。
まとめ:副業は「構造×案件数×シナジー」で選ぶ
潜水士副業の実体験から言えるのは、対等構造だけでは食えないということだ。案件数が見込めない副業は、どれだけ条件が良くても継続できない。
いま副業を選ぶなら、次の3軸でチェックすることを勧める。
- 対等構造か(不当な扱いを受けないか)
- 案件数は見込めるか(営業コストが低いか)
- 本業とシナジーがあるか(工数・スキル・顧客の重複)
潜水士は1と3を満たしていたが、2で躓いた。この教訓は、次の副業選定に活きている。
関連書籍
マーケット感覚を身につけよう——「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法
「誰が何にいくら払っているか」を観察する習慣が、副業選定の判断軸になった。
サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい——人生100年時代の個人M&A入門
「既存顧客がいる事業を買う」発想の逆が、潜水士副業の弱点だった。
【新版】小さな会社★儲けのルール——ランチェスター経営7つの成功戦略
「弱者は1点集中」の原則が、副業の横展開を止めさせた。
参考
- 日本動物園水族館協会「加盟園館一覧」 https://www.jaza.jp/
- 厚生労働省「潜水士免許について」 https://www.mhlw.go.jp/
- 中小企業庁「兼業・副業の促進に関するガイドライン」 [出典URL要確認]