FI論の盲点:貯めた後に使えない設計の危険性
50歳で年間配当200万円を達成し「呼ばれた現場のみ受ける」働き方へ移行する——これが私のFI設計の骨格だ。ただし、この設計には「貯める技術」に偏重し「使う技術」が欠落している危険性がある。
『DIE WITH ZERO——人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ビル・パーキンス著)は、その盲点を正面から突いてくる。「資産をゼロにして死ぬ」という逆説的な提案を通じて、FI後の時間配分・記憶への投資・健康寿命との兼ね合いを設計し直す必要性を示している。
本書を読んで再設計した「FI後の使う設計」を、38歳の現在地から3段階で整理する。45歳サイドFIRE期の記憶配当、50歳以降の呼ばれて行く働き方、ゼロで死ぬ前提の時間配分——この3軸がFI設計の裏返しとして機能する。
第1段階:45歳記憶の配当——体験価値が最大化する時期に前倒し投資
本書の核心概念の一つが「記憶の配当」だ。体験は記憶として残り、その記憶を思い返すたびに追加の喜びを得る。つまり若いうちの体験ほど、長い人生で何度も思い返す機会があり、配当利回りが高い。
私の設計では43歳サイドFIRE・50歳「呼ばれて行く」モードへの移行を想定しているが、この間の45歳前後が「体験への前倒し投資」の最適期になる。子供が小学生〜中学生の時期と重なり、家族旅行・キャンプ・スポーツ観戦など「一緒にできる体験」の選択肢が最も多い。
具体的には、配当所得の一部を「記憶口座」として分離し、家族体験に優先配分する設計を組み込んだ。50歳以降に繰り延べても体験価値は減衰する(子供の成長で一緒に行動する機会が減る、自分の体力・健康状態が変動する)ため、45歳前後に集中投資する方が合理的だ。
第2段階:50歳以降の呼ばれて行く働き方——社会接続と役割維持の装置
本書のもう一つの論点が「健康寿命と資産の交点」だ。パーキンスは「体力・気力・資産の3要素が揃う時期」を最優先すべきと説く。50歳以降、収入動機が薄れた後も「呼ばれて行く」働き方を維持する理由は、この交点を意識した設計だ。
私の想定では、50歳以降の恐れは「収入断絶」から「社会からの断絶」へ移行する。配当所得で生活費を賄える状態になると、金稼ぎの意義は薄れるが、「必要とされる場所」「役割を果たす機会」の喪失が新たなリスクとして浮上する。
「呼ばれて行く」働き方は、この断絶リスクへの対抗装置として機能する。信頼と実績ある取引先から年1〜2回声がかかり、こちらの言い値で受ける——この構造は収入より「社会接続の維持」が主目的だ。完全リタイアではなく「最前線で呼ばれて行ける自分」を維持することで、体力・気力が残る時期に役割を持ち続ける。
パーキンスの枠組みでは、これは「資産がある状態で体力・気力を使い切る」設計に該当する。50代で完全引退すると体力・気力が余剰化し、60代以降の健康寿命短縮期に資産だけが残るリスクが高まる。
第3段階:ゼロで死ぬ前提の時間配分——優先順位の逆算と固定費の削減
本書の「ゼロで死ぬ」提案は、単なる浪費推奨ではなく「優先順位の逆算」を迫るものだ。資産をゼロにする前提で時間配分を見直すと、FI後の固定費削減・相続設計・寄付タイミングの論点が浮上する。
私の設計では、50歳以降の生活費は配当所得で賄える想定だが、固定費(住居・保険・通信・車両)の見直しを50歳到達前に完了させる必要がある。本書の論理では「使わない資産を抱えたまま死ぬ」のは機会損失であり、固定費削減で浮いた資金は45歳前後の記憶配当へ前倒しする方が合理的だ。
また、相続設計の論点も変わる。子供への資産移転は「子供が最も必要とする時期」に前倒しすべきで、親の死後(60代〜70代)では遅すぎる。教育資金・住宅資金のタイミングを逆算し、生前贈与・教育資金贈与の枠を活用する設計を組み込む。
時間配分の優先順位も逆算が必要だ。50歳以降は「家族時間の絶対量」が減少する(子供の独立・親の介護・自分の健康変動)ため、43歳〜50歳の7年間が「時間を使える最後の集中期」になる。この期間の優先順位は記憶配当>資産積増しに倒す。
まとめ:FI設計の裏返しとしての「使う技術」
『DIE WITH ZERO』が提示する「ゼロで死ぬ」論理は、FI設計の裏返しとして機能する。貯める技術・増やす技術に偏重すると、使う技術・時間配分の優先順位が欠落し、資産を抱えたまま体力・気力・家族時間を失うリスクが高まる。
38歳の現在地から逆算した3段階——45歳記憶配当の前倒し投資、50歳以降の社会接続装置としての「呼ばれて行く」働き方、ゼロで死ぬ前提の固定費削減と相続設計——をFI論の補完軸として組み込んだ。
「貯めた後に使えない」設計の危険性を回避するため、本書の論理を定期的に参照し、時間配分の優先順位を見直し続ける必要がある。
関連書籍
DIE WITH ZERO——人生が豊かになりすぎる究極のルール
- 著者: ビル・パーキンス
- 出版社: ダイヤモンド社