GitHub Copilot設計者が書いたプロンプト設計論の射程
『LLMのプロンプトエンジニアリング』(John Berryman, Albert Ziegler著・オライリー・ジャパン)は、GitHub Copilot の設計者が書いたプロンプト設計の原理を扱った本だ。コード生成に特化した内容かと思いきや、コンテキスト設計・スカフォールディング(足場組み)・評価設計という3つの概念は、業務全般のLLM活用に応用できる汎用性を持っていた。
私は38歳の個人事業主で、法人も併営している。日常的に見積作成・報告書生成・事業概要書の更新といった定型性の高い業務を抱えており、これらを「毎回ゼロから書く」状態から脱却したかった。この本を読んで得た設計論を、実際に業務用プロンプトテンプレート化する過程で実装した3段階の設計を記録する。
第1段階:コンテキスト設計——背景情報の構造化と差し込み設計
本書で最も印象的だったのは「コンテキストは明示的に与えるもの」という原則だ。LLMは背景を推測してくれるが、推測に頼ると出力がブレる。業務文書では「この文脈で書く」という前提を毎回統一する必要がある。
私が最初に取り組んだのは、見積書生成用のコンテキストファイル化だった。具体的には以下の構造を作った。
- 事業者情報(固定):屋号・所在地・代表者名・連絡先・事業内容の要約
- 案件情報(可変):取引先名・案件概要・期間・想定工数
- 価格体系(固定):基準単価・移動費の考え方・消費税の扱い
これらを1つのMarkdownファイルにまとめ、プロンプトの冒頭に差し込む設計にした。LLMに「あなたは〇〇として見積を作成します。以下の情報を前提にしてください」と明示することで、出力の一貫性が格段に上がった。
ポイントは、コンテキストを「毎回手入力」ではなく「ファイル参照で差し込む」形にしたこと。これにより、事業内容や価格体系が変わったときは1箇所修正すればすべてのプロンプトに反映される仕組みができた。
第2段階:スカフォールディング——段階的指示で出力を制御する
本書では「スカフォールディング」を「LLMに足場を組んであげる指示設計」と定義している。一度に完成形を求めるのではなく、段階的に指示を与えて出力を制御する考え方だ。
私が報告書生成で実装したのは、次の3段階指示だった。
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第1段階:構成案の出力
「以下の案件情報をもとに、報告書の見出し構成を箇条書きで提案してください」と指示し、H2レベルの見出しだけを先に確定させる。 -
第2段階:各セクションの本文生成
確定した見出しごとに「〇〇セクションの本文を400字程度で書いてください」と個別に指示。一気に全体を書かせるより、セクションごとに制御したほうが意図通りの粒度になる。 -
第3段階:全体の整合性チェック
最後に全文を渡して「用語の統一と論理の整合性を確認してください」と指示。誤字脱字や表現のブレを修正させる。
この段階分けにより、「最初の出力が意図と違う」ときに全体を書き直すコストが劇的に減った。特に、構成案を先に確定させる第1段階の効果が大きい。ここで方向性を握ることで、後続の指示が的確になる。
第3段階:評価設計——出力品質を測る指標の明示
本書の後半で扱われている「評価設計」は、LLMの出力を「良し悪し」で判定する基準を事前に定めておく考え方だ。これは、プロンプトを繰り返し使う業務では必須の設計だと実感した。
私が事業概要書の更新で設定した評価指標は以下の3つ。
- 文字数基準:各セクションは300〜500字。超過も不足も不可。
- 用語統一:「個人事業主」「法人」「併営」などのキーワードは初出時に定義し、以降は統一表記。
- 事実ベース:推測・誇張・未達成目標を達成済みとして書かない。計画は「計画」と明示。
これらをプロンプトの末尾に「以下の評価基準を満たしてください」として列挙する。LLMは明示的な基準があると、それに沿って出力を調整してくれる。特に「事実ベース」の指示は、法人取引や融資関連の文書では必須だ。誇張や推測が混ざると信用を損なう。
評価指標を書くことで、自分自身が「何を求めているか」を言語化する副次効果もあった。曖昧な指示では曖昧な出力しか返ってこない。評価基準を明文化するプロセス自体が、業務文書の品質向上に直結した。
テンプレート化で得た「繰り返し使える資産」としての設計
コンテキスト・スカフォールディング・評価設計の3段階を実装した結果、私の業務用プロンプトは「その都度考える指示」から「繰り返し使えるテンプレート」に変わった。
現在は、見積・報告書・事業概要書・融資面談用資料の4種類について、それぞれ専用のプロンプトテンプレートをMarkdownファイルで管理している。案件情報や日付などの可変部分だけを差し替えれば、一定品質の出力が得られる仕組みだ。
テンプレート化のメリットは、時短だけではない。「前回どう書いたか」を参照する手間が減り、表現の一貫性が保たれる。特に法人取引では、見積書や報告書の書式が案件ごとにブレると信頼を損なう。テンプレートがあることで「毎回同じ構造で出す」安定性が担保できた。
本書は技術者向けのプロンプト設計論だが、私のような個人事業主が業務文書を内製するときの設計指針としても十分に機能する。コンテキスト・スカフォールディング・評価設計という3つの概念は、LLMを「便利ツール」から「業務資産」に変える鍵だと実感している。