法人の現金を個人に戻したいが配当だと税が重い
株式会社を運営していると、法人口座に利益が積み上がる。この現金を個人のNISA口座やiDeCoの原資にしたいが、配当で引き出すと約20%の税(所得税15.315%+住民税5%)がかかる。100万円配当しても手取りは約80万円。この目減りを避けたい。
私は38歳で個人事業と法人を併営している。法人設立時に個人資金を法人に貸し付けた「役員借入金」が帳簿に残っており、この借入金を返済する形で現金を個人に戻せば非課税で移動できる。配当ではなく借入金の返済なので、個人側に所得税・住民税は発生しない。
ただしこのルートは適正な実態がなければ税務否認のリスクがある。今回は役員借入金返済を使った現金移動の3段階設計と、税理士確認の線引きを整理する。
役員借入金とは何か:法人設立時の個人資金注入の痕跡
役員借入金は法人の負債科目。法人設立時や運転資金不足時に、代表者個人が法人に現金を貸し付けた記録だ。私の場合、法人設立時に個人口座から100万円を法人口座に振り込み、この100万円が「役員借入金」として法人の貸借対照表に計上されている。
この借入金は法人が個人に返済する義務がある負債なので、返済しても個人側に所得は発生しない。元々個人の資金だったものが戻ってくるだけだからだ。配当は法人の利益を分配する行為なので課税されるが、借入金の返済は利益の分配ではなく負債の消滅なので非課税。この性質の違いが現金移動ルートの鍵になる。
法人の帳簿に役員借入金が計上されているかは、税理士に決算書を見せれば一発で分かる。貸借対照表の負債の部に「役員借入金」または「短期借入金(役員)」という科目があれば、その金額分だけ返済可能な枠がある。
返済計画の3段階:税理士確認→定期返済→投資原資化
役員借入金返済を投資原資に使う設計は以下の3段階で組む。
第1段階:税理士に返済可能額と実態確認を依頼
まず税理士に現在の役員借入金残高と返済可能額を確認する。私の場合、設立時の100万円と追加で貸し付けた50万円の合計150万円が帳簿に残っている。この150万円は全額返済可能だが、法人のキャッシュフローを圧迫しない範囲で返済額を決める必要がある。
税理士には「月々いくらなら返済しても資金繰りが回るか」を試算してもらう。私は月3万円の返済なら本業の入金サイクルと干渉しないと判断した。年間36万円、5年弱で完済する計算だ。
また返済の実態が重要。実際に法人口座から個人口座に振り込まれ、通帳に記録が残る形でなければ税務調査で否認される。税理士には「毎月○日に法人口座→個人口座へ振込」という運用設計を確認してもらい、仕訳の切り方も指示を受ける。
第2段階:定期返済の自動化と記帳
返済計画が固まったら実行に移す。私は毎月25日に法人口座から個人口座へ3万円を振り込む設定にした。振込手数料は法人負担(支払手数料で計上)。振込明細には「役員借入金返済」とメモを残す。
会計ソフト(私はマネーフォワード クラウド会計を使用)には以下の仕訳を毎月登録する:
役員借入金 30,000 / 普通預金 30,000
この仕訳で法人の負債(役員借入金)が減り、個人口座に現金が移動する。個人側の帳簿では何も記帳しない。借入金の返済は収入ではないので、個人事業の帳簿にも法人の帳簿にも所得として計上されない。
自動振込設定をしておけば手動操作を忘れるリスクが減る。私は法人口座のネットバンキングで毎月25日に個人口座へ3万円振込という定期振込を登録した。
第3段階:返済された現金を投資原資に充当
個人口座に戻った現金は自由に使える。私はこの3万円を毎月NISA口座の投資信託買付に回している。役員借入金の返済→NISA積立という流れで、法人利益を非課税で投資原資化できる。
配当で引き出した場合と比較すると:
- 配当ルート:法人から3万円配当→税引後24,000円が個人口座へ→NISA買付24,000円
- 借入金返済ルート:法人から3万円返済→非課税で30,000円が個人口座へ→NISA買付30,000円
同じ3万円を動かすのに、配当だと6,000円目減りする。年間では72,000円、5年で36万円の差が出る。この差額を投資に回せば複利で膨らむ。
注意点として、役員借入金の残高を超える返済はできない。私の場合150万円が上限なので、それ以上は配当か役員報酬で引き出すしかない。また法人が赤字でキャッシュフローが厳しいときに無理に返済すると資金ショートするので、税理士と相談しながら返済ペースを調整する。
税務リスクと税理士確認の線引き
役員借入金返済は適法だが、実態がなければ税務否認される。以下のケースは危険。
- 架空の貸付:実際には個人資金を法人に入れていないのに、帳簿上だけ役員借入金を計上して返済を受ける。これは脱税行為。
- 利息の過大計上:役員借入金に利息をつける場合、利率が市場金利より著しく高いと否認される。私は利息なしで貸し付けているので問題ない。
- 返済の記録不在:振込記録がなく、帳簿上だけ返済したことにする。実際の現金移動がなければ認められない。
税理士確認の線引きは「実態があるか」の一点。設立時に個人口座から法人口座への振込記録があり、その金額が帳簿に役員借入金として計上されていれば実態あり。返済も法人口座→個人口座の振込記録が通帳に残っていれば問題ない。
私は年1回の決算時に税理士に通帳コピーと会計ソフトのデータを渡し、役員借入金返済の仕訳が正しく記録されているか確認してもらっている。税理士報酬は年間で業界相場程度だが、この確認作業込みで依頼している。
配当と役員報酬との使い分け
役員借入金の返済は借入金残高が枯渇したら使えない。それ以降は配当か役員報酬で法人の現金を個人に移すしかない。
- 役員報酬:毎月固定額を給与として受け取る。社会保険料の算定基礎になるので、低めに設定すると社会保険料を抑えられる。ただし所得税・住民税・社会保険料が天引きされるので手取りは目減りする。私は月5万円に設定している。
- 配当:法人の利益を株主(私)に分配する。約20%の税が引かれるが、役員報酬と違って社会保険料はかからない。まとまった金額を一度に引き出したいときに使う。
役員借入金返済は非課税で手取りが最大化できるので、残高がある限り優先的に使う。返済が終わったら配当と役員報酬のバランスで調整する。私は役員報酬を最低限(社会保険の下限ライン)に抑え、追加の生活費や投資原資は配当で引き出す設計にしている。
投資原資を確保する全体設計:法人利益→非課税移動→NISA積立
法人利益を投資原資に回す全体設計は以下の優先順位で組む。
- 役員借入金返済:残高がある限り毎月定額を返済し、非課税で個人口座に移動。
- 小規模企業共済・iDeCo:個人事業の所得控除を使って投資原資を積み立てる。こちらも非課税。
- NISA積立:個人口座に戻った現金をNISA枠で投資信託に充当。運用益も非課税。
- 配当:役員借入金が枯渇したら配当で追加原資を引き出す。税は約20%だが、役員報酬より社会保険料がかからない分有利。
この設計で法人利益→投資原資の経路を最大効率化できる。私の場合、役員借入金150万円を5年で返済しながら、毎月のNISA積立枠を埋めていく計画だ。
まとめ:適正実態と税理士確認があれば非課税で現金を動かせる
役員借入金の返済は配当より税負担が軽く、法人の現金を投資原資に回す有力なルートだ。ただし適正な実態(実際に個人資金を法人に貸し付けた記録)と税理士確認が前提。架空の貸付や記録のない返済は税務否認される。
私は設立時の貸付記録と毎月の振込記録を税理士に確認してもらい、安全に運用している。借入金残高が枯渇するまでは配当より返済を優先し、手取りを最大化する設計だ。
法人を持っている人は、まず決算書で役員借入金の残高を確認し、税理士に返済可能額を試算してもらうことから始めるといい。
関連書籍
役員借入金と法人から個人への資金移動については『新版 ひとり社長の経理の基本』が実務レベルで整理されている。配当・役員報酬・借入金返済の使い分けと税務リスクの線引きが具体的に書かれており、税理士に相談する前の予習として有用だった。
また投資原資の確保と運用については『改訂版 お金は寝かせて増やしなさい』が基本思想を提供してくれる。法人利益をどう個人の投資に回すかという設計の前提として、インデックス投資の長期運用戦略を理解しておくと判断軸が安定する。
参考
- 国税庁「役員借入金と税務上の取扱い」 https://www.nta.go.jp/
- 日本税理士会連合会「法人の負債と返済の実務」 https://www.nichizeiren.or.jp/
- 中小企業庁「中小企業の資金繰りと役員借入金」 [出典URL要確認]