できる人ほど自分でやってしまう――それが精度事故の入口だった
私は株式会社USの代表として、NDT検査業務の計画立案から実作業まで一人で回している。Claude Codeを導入してから作業の大半を自動化できるようになったが、ある問題に直面した。司令塔役の私が直接ファイルをいじる運用を続けていたら、同種のミスを3回連続で出してしまったのだ。
最初は「AIが間違えた」と思った。だが3回目のミスで気づいた。間違えているのはAIではなく、判断する人間と手を動かす役割を混ぜている運用そのものだった。判断・計画・指示を出す司令塔が、同時に実作業のファイルを直接編集していると、判断のスイッチが切り替わらず、チェック機能が働かない。
この記事では、司令塔役が手を動かすと精度事故が起きる構造と、一人でも役割を分離して品質を上げる設計を3段階で書く。
第1段階:司令塔が直接ファイルをいじる運用で起きた3つの事故
最初の運用は単純だった。私が計画を立て、Claude Codeに指示を出し、出力されたファイルを私が直接編集して完成とする。一人で完結するから速い。だが、この運用で次の3つの事故が起きた。
事故1:数式の参照範囲ミス
Excelの集計シートで、合計範囲が1行ズレていた。Claude Codeが出力した数式を私が直接修正したとき、参照セルを手打ちで変更してミスした。修正作業中は「手を動かす人」のモードになっており、全体の整合性を判断する司令塔の視点が抜けていた。
事故2:ファイル名の不整合
ファイル命名規則を途中で変更したとき、過去ファイルとの整合が取れなくなった。私が直接リネームしたため、命名規則の変更を計画として記録せず、判断の履歴が残らなかった。後日別の作業で旧命名のファイルを参照しようとして、存在しないパスでエラーが出た。
事故3:データ更新の抜け漏れ
複数シートにまたがるデータを更新する作業で、1枚だけ更新が漏れた。私が「このシートだけ手で直そう」と判断して直接編集したが、他シートとの連動を見落とした。司令塔として「どのシートを更新すべきか」の計画を出さず、実作業者として「目の前のシートだけ直す」モードで動いていたため、全体視点が抜けた。
共通点は、司令塔が直接手を動かすと、判断のスイッチが切り替わらず、チェック機能が働かないことだった。
第2段階:役割を分離する――判断する人と手を動かす人を一人でも分ける
3回目のミスで、運用を作り直した。核心は役割の分離だ。一人でも、判断・計画・指示を出す司令塔役と、実作業を担当する実行役を明確に分ける。私は次の4役割を設計した。
役割1:精読役
作業の前提となる仕様・データ・過去の判断履歴を読み込む役割。私が担当する。ここで全体の整合性を確認し、何を変更すべきか・何を変更してはいけないかを判断する。
役割2:計画役
どのファイルを・どの順序で・どう変更するかの計画を文書化する役割。私が担当する。計画はMarkdownファイルとして保存し、判断の履歴を残す。「このシートだけ手で直そう」という場当たり的な判断を出さない。
役割3:実行役(AIエージェント)
計画に従ってファイルを編集する役割。Claude Codeが担当する。実行役は判断しない。計画に書かれた手順を機械的に実行するだけ。私は実行役のファイルを直接編集しない。
役割4:検収役
実行結果が計画通りか・全体の整合性が保たれているかを確認する役割。私が担当する。検収で不備が見つかったら、計画役に戻って計画を修正し、実行役に再指示する。実行役のファイルを直接直さない。
重要なのは、私が実行役のファイルを直接編集しないことだ。司令塔が手を動かすと、判断のスイッチが切り替わらず、チェック機能が働かない。計画を修正して再実行させることで、判断と実作業を分離する。
第3段階:役割分離で品質が上がった3つの理由
役割分離の運用に切り替えてから、精度事故がゼロになった。理由は次の3つだ。
理由1:判断の履歴が残る
計画をMarkdownファイルとして保存することで、「なぜこの変更をしたか」の判断履歴が残る。後日別の作業で参照したとき、過去の判断と矛盾する指示を出すリスクが減る。司令塔が直接ファイルをいじる運用では、判断の履歴が残らず、同じミスを繰り返していた。
理由2:全体視点が保たれる
私が実行役のファイルを直接編集しない運用にすることで、常に全体の整合性を判断する司令塔の視点を保てる。「このシートだけ手で直そう」という局所最適の判断を出さず、全体の整合性を計画として文書化してから実行させる。
理由3:チェック機能が働く
検収役として実行結果を確認するとき、私は「手を動かした人」ではなく「計画を出した人」の視点で見る。自分が直接編集したファイルは、自分のミスに気づきにくい。実行役が別であれば、計画と実行結果の差分を客観的に確認できる。
一人でも役割を分ければ、品質は上がる。司令塔が手を動かすと、判断のスイッチが切り替わらず、チェック機能が働かない。判断・計画・指示と、実作業を混ぜないことが、精度事故を防ぐ設計の核心だ。
まとめ:司令塔は手を動かさない――役割分離が品質を上げる
できる人ほど自分でやってしまう。それが精度事故の入口だった。司令塔が直接ファイルをいじる運用でミスが増えた経験から、判断・計画・指示を出す司令塔役と、実作業を担当する実行役を明確に分離する設計へ作り直した。
一人でも役割は分ける。判断する人と手を動かす人を混ぜない。計画を文書化して判断の履歴を残し、実行役(AIエージェント)に機械的に実行させ、検収役として計画と実行結果の差分を確認する。この3段階の役割分離で、精度事故はゼロになった。
AI導入で作業が速くなるほど、役割分離の設計が品質を決める。司令塔は手を動かさない。この原則を守ることが、一人社長がAIを使って品質を上げる最初の一歩だ。