還元率で選ぶと、毎月の作業が増える
銀行口座もクレジットカードも、比較記事はだいたい還元率と手数料で並んでいる。個人の家計だけを回しているなら、それでいい。
ただ、個人事業(USサービス)と法人(株式会社US)を併営しはじめてから、その基準が自分の役に立たなくなった。還元率が0.5%違っても、年間で効く金額はたかが知れている。それより、月末に「この支払いは事業か、個人か」を仕分ける時間のほうが、はるかに高くついていた。
結論から書く。併営者にとって口座とカードの選定基準は、還元率ではなく「境界線を物理的に引けるか」だ。
構造:会計ソフトは「何を見て」仕訳を決めているのか
なぜそうなるのか。会計ソフトの自動仕訳の仕組みを分解すると分かる。
自動仕訳は、明細のテキスト(店名・摘要)と金額から科目を推定している。だが推定の前に、もっと強い前提が一つある。**「その明細がどの口座・どのカードから来たか」**だ。事業用として登録した口座の明細は、そもそも事業の取引として取り込まれる。個人用口座の明細は、事業側の帳簿に入ってこない。
つまり、口座とカードを事業用・個人用で分けた時点で、仕訳の大半は判定する前に決まっている。逆に1枚のカードを共用すると、明細1本ずつに「これは事業」「これは個人」という判断が発生し続ける。この判断は自動化できない。店名からは分からないからだ。同じホームセンターで買った工具が事業経費で、電球が家事費、ということが普通に起きる。
自動化の効きが悪いと感じるとき、原因はソフトの性能ではなく、入口が混ざっていることが多い。
実際にどう分けているか
自分の構成はこうなっている。
銀行(3系統)
- 住信SBIネット銀行:個人の生活口座。個人カードの引落元
- 信用金庫:個人事業の口座。事業カードと借入返済の引落元
- GMOあおぞらネット銀行:個人事業のサブ口座
カード(2枚+法人カード)
- 三井住友カード ゴールドNL:個人用。JALマイルを貯める側に寄せている
- セゾンプラチナビジネス・アメリカン・エキスプレス:個人事業用
- 法人の支払いは法人カードで、上の2枚とは完全に別系統
その他
- 証券口座:SBI証券と楽天証券
- 暗号資産:bitFlyer
- 家計側はマネーフォワード ME、事業側はマネーフォワード クラウドで見ている
ポイントは枚数の少なさではなく、1つの支払い目的に対して入口が1つしかないという状態を作っていることだ。事業の支払いを個人カードで切ってしまうと、その1件のためだけに立替精算の処理が発生する。年に数回なら誤差だが、日常的に起きると帳簿が濁る。
詰まった実例:社会保険料の口座振替
境界設計で一番詰まったのは、還元率とはまったく関係のないところだった。社会保険料の口座振替だ。
ネット銀行は、この領域に対応していないことがそれなりにある。事業用の資金をネット銀行に集約していると、社会保険料だけ別の口座から落とさざるを得ない、という歪みが出る。境界を引いたはずなのに、1本だけ線をまたぐ支払いが残る。
ここで効いたのが GMOあおぞらネット銀行だった。社会保険料の口座振替に対応していたので、事業側の入口を増やさずに済んだ。役員報酬を月50,000円に設定して社会保険の最低基準を維持する設計を取っている以上、社会保険料の支払いは毎月必ず発生する。ここが例外扱いになるかどうかは、年12回の差になる。
カタログスペックの比較表には、こういう項目はまず載っていない。実際に運用してはじめて、どの項目が自分にとっての律速かが分かる。
一般化:境界を物理に落とすと、判断が消える
ここから引き出せる原則は一つだ。
判断を減らしたければ、ルールで頑張るのではなく、物理的な入口を分ける。
「これは事業、これは個人」という判断を毎月正しく下せる自分を前提にした設計は、繁忙期に崩れる。春と秋の定修シーズンは現場に出ていて、月末の仕分け作業に回せる時間がない。そのときに効くのは、判断しなくても正しく分かれている構造のほうだ。
これは経理に限った話ではない。判断が発生し続ける仕組みは、判断の質ではなく、判断の回数で壊れる。回数をゼロに近づける設計が先で、精度を上げるのはその後でいい。
まだ分かっていないこと
正直に書いておく。
- 法人カードの選定はまだ最適化できていない。今は「法人の支払いが個人と混ざらない」ことだけを満たしている状態で、還元やマイルの設計までは踏み込めていない
- 借入は3系統(公庫・信用金庫・ろうきん)に分かれているが、これは境界設計というより経緯の産物だ。まとめたほうがいいのか、分散させておくほうが調達余力として有利なのかは、まだ判断がついていない
- 口座を増やしすぎると、今度は残高の把握コストが上がる。家計簿アプリで一覧できているから成立している構造で、アプリが止まったら破綻する。ここは依存だと自覚している
使っている会計ソフト
事業側の帳簿は、法人・個人事業ともマネーフォワード クラウドで回している。口座とカードを上記のように分けたうえで連携させると、月次でやることは例外処理の確認だけになる。
新規申込はこちら → クラウド型会計ソフト マネーフォワード クラウド会計。料金プランは公式サイトの最新情報を確認してほしい。
なお、ここで挙げた銀行・カード・証券は、いずれも自分が実際に使っているものだけを書いている。使っていないサービスの比較や推薦はしない。
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参考情報
- マネーフォワード クラウド公式: https://biz.moneyforward.com/
- マネーフォワード ME 公式: https://moneyforward.com/
- 日本年金機構「口座振替納付」: https://www.nenkin.go.jp/
- 日本政策金融公庫: https://www.jfc.go.jp/
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