経理を「外注する前に自分で回す」設計思想
株式会社USを設立してから、顧問税理士には決算・申告を依頼しているが、日常の記帳は自分で回している。月5万円の役員報酬という最低限の設計なので、記帳作業を外注するコストは相対的に重い。井ノ上陽一『新版 ひとり社長の経理の基本』(ダイヤモンド社)を読んで得たのは「集める→記録する→チェックする」という3ステップの骨格だった。この本は会計ソフトの操作マニュアルではなく、「ひとり社長がどう経理を回すか」という設計思想を言語化している点が実務に効いた。
個人事業USサービスと株式会社USを併営する構造では、経費の按分・報酬の設定・消費税の管理が複雑化する。税理士に丸投げする前に、自分で「どの取引がどちらのエンティティに紐づくか」を判断できる状態を作っておかないと、決算時に混乱する。本書の「集める→記録する→チェックする」は、この判断軸を自分の中に実装するための手順書として機能した。
「集める」:領収書・請求書・通帳記録の動線設計
最初のステップは「集める」。本書では紙・データ・通帳の3種類の証憑を「発生時にすぐ集める仕組み」を作ることを強調している。私は法人と個人の口座を物理的に分けているが、経費の按分対象(例: 事務所の光熱費・通信費)は両方に関わる。領収書を受け取った瞬間に「これは法人/個人/按分」のラベルを貼る習慣を作った。
具体的には、スマホのカメラで領収書を撮影してクラウドストレージに即アップロードし、ファイル名に「法人_YYYYMMDD_項目名」「個人_YYYYMMDD_項目名」「按分_YYYYMMDD_項目名」のプレフィックスを付ける。按分対象は後で比率を決めればいいので、まず「両方に関わる」という事実だけを記録する。この動線を作ったことで、月末にまとめて仕分けする手間が消えた。
通帳記録も同様で、法人口座・個人口座・クレジットカードの明細をCSVで落として、同じフォルダに格納する。「集める」段階では分類の精度より「漏れなく記録媒体に残す」ことが優先される。
「記録する」:会計ソフトへの入力タイミングと按分ルール
次のステップは「記録する」。本書では「リアルタイム記帳」を推奨しているが、私は月次でまとめて入力している。理由は、NDT検査の繁忙期(春3〜5月・秋9〜11月)は現場に出ている日が多く、毎日記帳する余裕がないため。代わりに、閑散期(6〜8月・12〜2月)は週次で記帳し、繁忙期は月末に1回まとめる運用にしている。
会計ソフトはマネーフォワード クラウドを使っているが、按分対象の経費は「補助科目」で法人・個人の比率を設定している。例えば事務所の光熱費は「法人7割・個人3割」で按分し、クラウド会計上で自動仕訳ルールを作った。この比率は税理士と相談して決めたもので、事務所スペースの使用実態と業務時間の配分から逆算している。
記帳のミスを減らすため、クレジットカードと銀行口座は自動連携を使っているが、現金払いの領収書だけは手入力が必要。ここで「集める」段階のファイル命名ルールが効いてくる。ファイル名を見れば法人/個人/按分の判断が瞬時にできるので、入力作業が機械的に進む。
「チェックする」:月次試算表と税理士面談の準備
最後のステップは「チェックする」。本書では「月次試算表を自分で読む習慣」を作ることを強調している。クラウド会計は自動で月次試算表を出してくれるが、数字の意味を読み取れないと、税理士に質問すらできない。私は月末に試算表を出力して、前月比・前年同月比を見る習慣を作った。
チェック項目は3つ。①売上が計上漏れしていないか、②経費の按分比率が設定通りか、③役員報酬が月5万円で計上されているか。特に役員報酬は「毎月定額」が税務上の要件なので、自動仕訳でミスがないか必ず確認する。
税理士との面談は四半期ごとに設定しているが、この3ステップを回していると「税理士に見せる前に自分で異常値を潰せる」状態になった。面談では「この経費は按分でいいか」「この売上計上のタイミングは適切か」といった判断の確認に時間を使えるようになり、記帳ミスの指摘で時間を消費することが減った。
併営構造で「経理を自分で回す」意味
個人事業と法人を併営する構造では、税理士に丸投げするコストが相対的に高い。記帳代行まで依頼すると顧問料が跳ね上がるし、そもそも「どちらのエンティティに計上するか」の判断は、事業実態を知っている自分にしかできない。『新版 ひとり社長の経理の基本』から得た「集める→記録する→チェックする」の3ステップは、この判断を自分の中に実装するための骨格として機能した。
経理を自分で回す最大のメリットは、数字で事業を語れるようになることだった。融資面談で「売上の内訳」「経費の按分比率」「役員報酬の設定理由」を即答できる状態は、税理士に任せていたら作れなかった。月5万円の役員報酬という設計も、試算表を自分で読む習慣があるから「社会保険の最低基準を維持しつつ法人所得を残す」という意図を説明できる。
本書は会計ソフトの操作を教える本ではなく、「ひとり社長がどう経理と向き合うか」という姿勢を言語化した本だった。併営構造の実務に組み込んだ3ステップは、税理士との対話の質を上げる基盤として今も機能している。