法人を作った理由は「社会保険加入」と「発注側の信用」だった
私が株式会社USを設立したのは2年前、36歳のときだ。NDT検査の個人事業(USサービス)を続けながら、法人を窓口にして有期社員や業務委託を発注する構造を作りたかった。
法人化の動機は明確に3つあった。
- 法人がないと社会保険に加入できなかった(役員報酬月5万円で最低等級を維持する設計)
- 人を雇う・外注を出す側として、法人を窓口にするほうが信用があった
- タイミングはとにかく早くという意識だった
受注側の信用を得るためではなく、発注する側(雇う側・外注を出す側)としての信用を作るのが主目的だった。この区別は重要だと思う。
ただし設立後に初めて実感した固定費がある。事前に知っていれば判断材料にできた数字を、今回は3つに整理して開示する。
法人設立後に増えた固定費①:社会保険料(月1万円台)
役員報酬を月5万円に設定した理由は、社会保険の最低等級を維持するためだ。この報酬額で健康保険・厚生年金の合計が月1万円台前半になる。
個人事業のみで国民健康保険・国民年金を払っていたときと比べると、厚生年金に切り替わることで将来の年金額が増える設計になる。ただし毎月の支出は確実に増えた。
社会保険料は法人の経費にできるが、役員報酬から天引きされる形なので、実質的には自分の手取りが減る構造だ。設立前に「社会保険に入れる」というメリットだけを見て、月次の支出増を軽視していたのは反省点だった。
法人設立後に増えた固定費②:税理士報酬(月数万円台)
個人事業の確定申告は自分でマネーフォワード クラウド確定申告を使って処理していたが、法人は決算・法人税申告が複雑になるため、顧問税理士に依頼している。
報酬は月額数万円台。年間で見ると数十万円規模になる。ただしこの支出は「法人の記帳・決算・税務相談をすべて任せられる安心料」として、私は納得している。
税理士を選んだ経緯は、マネーフォワード クラウドの公認メンバー制度(名称は記憶が曖昧だが、クラウド連携している税理士のリスト)を使った。家計管理で13年使ってきたマネーフォワード MEの延長線上で、事業会計もMF連携している税理士に依頼したので、家計管理の延長だったので抵抗なく使えたというのが実感だ。
設立前は「自分で申告すれば税理士報酬はかからない」と考えていたが、実際に法人を回してみると、記帳の正確性・税務リスクの回避・時間の節約のすべてで税理士依頼のメリットが上回った。
法人設立後に増えた固定費③:口座維持費と決済手数料(年数千円〜1万円台)
法人の銀行口座は、個人の口座より維持費がかかる。私はGMOあおぞらネット銀行と住信SBIネット銀行(現在はドコモ系列にブランド移行)を使っているが、振込手数料の無料枠が個人口座より少なく、月次の振込回数が増えると手数料が積み上がる。
また法人カード(セゾンプラチナビジネス・アメリカン・エキスプレス)の年会費も数万円かかる。個人カードより特典が充実しているが、年会費は確実に支出増の要因になった。
これらの維持費・手数料は年間で数千円〜1万円台の規模だが、設立前に「口座を作れば終わり」と思っていた自分には、見えていなかったコストだった。
「3財布の管理は煩雑だが、計画が好きな自分にはメリット」という本音
個人・個人事業・法人の3つの財布を管理するのは、正直に言って煩雑だ。口座・カード・会計ソフト・税理士とのやりとりが3倍になる。
ただし私は計画や設計が好きな性格なので、この煩雑さをメリットと感じている。3財布の資金繰りを整理し、BS(貸借対照表)とPL(損益計算書)から現金の流れを読み解く作業が、むしろ楽しい。
マネーフォワード クラウドの残高試算表を見て、「今月はこの財布からこっちに資金を移動させよう」と考える時間は、経営の実感を得られる瞬間だ。
従業員ができた場合は法人に一本化も考えているが、現時点では併営を続ける。理由は「汎用性と思い入れ」だ。個人事業の屋号(USサービス)には愛着があるし、個人の確定申告スキルを維持しておきたいという動機もある。
設立前に「固定費の実額」を知っていたら判断は変わったか
社会保険料・税理士報酬・口座維持費の3つを合計すると、月額で数万円台、年間で数十万円規模の固定費が増えた。
もし設立前にこの実額を知っていたら、判断は変わっただろうか。
答えは「変わらなかった」と思う。なぜなら法人を作った動機(社会保険加入・発注側の信用)は、この固定費を払ってでも得たいものだったからだ。
ただし「設立後に初めて実感する」のと「設立前に知った上で判断する」のでは、精神的な負担が違う。固定費の実額を事前に知っていれば、もう少し余裕を持って資金繰りを組めたはずだ。
法人設立を検討している人への3つの論点
これから法人設立を検討している人に伝えたいのは、次の3点だ。
- 固定費の実額を具体的に見積もる:社会保険料・税理士報酬・口座維持費の月次・年次の実額を、自分の報酬額や売上規模に当てはめて試算する
- 「法人にしないとできないこと」を明確にする:受注側の信用ではなく、発注側の信用・社会保険加入・資金調達など、法人でなければ達成できない目的を整理する
- 併営のコストを許容できるか確認する:個人事業を残すなら、3財布の管理コスト(時間・労力・精神的負担)を事前に評価する
法人化は「いつか必要になる」ものではなく、「この目的のために今必要」という判断で決めるべきだと、2年間の実運用を経て思う。
固定費の実額を知った上で、それでも法人を作る理由があるなら、設立後の資金繰りは想定内に収まる。私の場合は「社会保険加入」と「発注側の信用」という2つの理由が、固定費増を上回る価値を持っていた。
これから設立を検討する人が、同じ「知らなかった」を繰り返さないよう、この実録が判断材料になれば幸いだ。
参考
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